京都ALS患者嘱託殺人事件

死の直前まで続いた二人のやり取り。なぜ一線を越えたのか?

声の出演:田畑智子 撮影:松村敏行、佐藤洋祐 照明:尾山隆之
カラーグレーディング・オンライン編集:織山臨太郎
音響効果:増子彰 整音:富永憲一 配給:東風 プロデューサー:⽯川朋⼦ 制作:digTV
製作:『京都ALS患者嘱託殺人事件』製作委員会 監督:⼆村真弘
2026年|日本|98分|DCP|ドキュメンタリー
Ⓒ『京都ALS患者嘱託殺人事件』製作委員会
公式サイト

京都ALS患者嘱託殺人事件
2019年11月30日、ALS患者の林優里さん(当時51歳)から殺害を依頼された2人の医師が、優里さんの住む京都市内のマンションを訪れ薬物を投与して“安楽死”させた。医師らは優里さんの主治医ではなく、SNSを通して知り合い、事件当日が初対面だった。優里さんからは医師側に130万円が支払われていた。2020年7月、京都府警は嘱託殺人容疑で大久保愉一と山本直樹を逮捕。さらに、裁判の過程で、大久保と山本が、山本の父親の殺人に関与していたことが明らかになった。2024年1月、初公判。京都地裁は、大久保に殺人・嘱託殺人・有印公文書偽造などの罪で懲役18年を言い渡した。大久保は判決を不服とするも、控訴、上告が棄却され、2025年6月に刑が確定。なお、山本は殺人罪で懲役13年、嘱託殺人罪などで懲役2年6カ月が確定している。

嘱託殺人罪
被害者の依頼を受け、その人を殺害した場合に適用される。被害者の意思に反して殺害する殺人罪の法定刑上限が死刑なのに比べ、6月以上7年以下の懲役または禁錮と軽い。自殺教唆や自殺幇助、承諾殺人罪と同じ刑法202条に規定されている。

2019年11月30日夕刻、「京都ALS患者嘱託殺人事件」発生―――

ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う林優里さん(当時51歳)から依頼され薬物を投与し殺害したとして、2020年7月、二人の医師が逮捕された。一人暮らしの彼女は事件当時、眼球しか動かせず、痰吸引や胃ろうからの食事、排せつなど24時間の介助が必要だった。主犯の大久保愉一と接触したのは、彼女が“安楽死”を望む言葉を度々投稿していたSNS。大久保らは事前に報酬として130万円を受け取り、初対面からわずか15分程度で殺害を実行した。さらに捜査で過去の殺人事件への関与も浮上。メディアは大久保の過去のブログなどから「ドクター・キリコ」への憧れや生命軽視の姿勢を大々的に報じ、〈狂った医者〉〈優生思想の殺人鬼〉と苛烈に非難。世間もまたそれに同調し責め立てた。そして25年、嘱託殺人罪などで懲役18年の刑が確定した。

監督は、「和歌山毒物カレー事件」に挑んだ『マミー』(24)で自らの闇をも曝け出し鮮烈な印象を残した二村真弘。優里さんの父親、SNS上での彼女を知る元看護師や難病当事者、医療とケアの専門家たちへの取材を重ね、彼女の人生を掘り下げていく。そのなかで見えてきた制度の未熟さ。明らかになる外界から完全に遮断されるかもしれない恐怖、そして、身体が訴え続ける生への渇望。一方で二村は、大久保の半生を辿るべく、母親やかつての医師仲間を訪ねる。さらに供述分析を独自に実施し、大久保が収監される大阪拘置所へ ―  。 「死にたい」、その言葉の奥にあるもの。ひとりの女性の声が受け止められない社会の空白地帯で、死の直前まで続いた二人だけのやり取り。私たちが目を背け続けている何かが、未公開のDMとそれぞれが語る“事実”から浮かび上がってくる。